JA上伊那 トルコギキョウ

 JA上伊那トルコギキョウは昭和後期の1980年頃、いな農協(現JA上伊那伊那地区)で本格的に栽培が開始されました。
 現在では全国各地から一年中出荷のあるトルコギキョウですが、栽培開始当初のトルコギキョウは水稲育苗用ハウスの有効利用として8月を中心に出荷がされていました。そのため、いな農協での当時の年間生産本数は平成初期で約25万本、令和元年現在の約10分の1でした。

 現在のトルコギキョウは八重咲き、大輪、豊かな花色と豪華な花のイメージですが、当時のトルコギキョウは一重咲き中心の、どちらかというと楚々とした可憐な花でした。また、当時のトルコギキョウは決して作りやすい花とはいえなかったようで、連作障害の発生や現在では余り話題に上らなくなった「ロゼット」と言う、葉っぱだけが大きくなり花が咲く茎が立ち上がらない障害の発生に苦しめられたと言う記録が残っています。


モルゲンロート

オリジナル品種の育成

 そこで、と乗り出したのが、伊那の地に適したオリジナル品種の育成です。病気や障害に強く育てやすい、そして花色の良い品種の開発は昭和末期より行われ、そこで作出されたパステルレッドの「モルゲンロート」は大きなヒットとなりました。
 更には「モルゲンピンク」(ピンク)、「モルゲンブロー」(パステルブルー)とモルゲンシリーズのヒットは続き、現在までオリジナル品種を中心に生産を行うJA上伊那トルコギキョウ生産の礎を築くこととなりました。

 生産が軌道に乗り、トルコギキョウと言う花の人気が高まるにつれ、市場からは出荷期間の延長が求められるようになります。要望に応えるべく遅く種をまくなど長く出荷できるような取り組みを行いますが、当時の品種は耐暑性に乏しく、3月から4月に定植を行い8月を中心に出荷をする作型以外で一定以上の品質を保つことが困難だったのです。

オホーツク

生産の拡大と共同育苗の開始

 そこで生み出されたのがより早く花を咲かせる「マシューブルー」、そして暑さに強く遅く植えても高い品質で生産をすることの出来る「オホーツク」でした。これにより当時圧倒的な需要量を持ったトルコギキョウの代表格・パステルブルーのみで7月から10月までの長期間継続的な出荷が出来るようになり、生産量を一気に拡大することになったのです。

 しかし真夏の高温期を生育期間にあて秋以降に出荷をするリスクは軽減されません。当時は共同育苗も行っていましたが、生産者個人でも種まき、育苗を行っていました。そのため育苗の失敗や苗質のばらつきも多く、また育苗期の高温に由来する障害も多発していました。

 それを解決するべく平成11年に設立されたのが共同の育苗法人、農事組合法人いなアグリバレーです。(農)いなアグリバレーでは生産者全員が出資者となり育苗棟の冷暖房や種子冷蔵設備の設置など専門機関に劣らない環境を整え、トルコギキョウ苗の生産に取り組み始めました。これにより均一で高品質な苗の供給が行えるようになり、JA上伊那のトルコギキョウは生産量、品質ともに飛躍的に向上することになります。

年度 生産出荷本数
平成元年 250,000本
平成5年 700,000本
平成10年 1,000,000本
平成15年 1,780,000本
平成20年 1,520,000本
平成25年 2,100,000本
平成29年 2,400,000本
令和元年 2,600,000本

 数字で見ると平成20年ごろに生産数量が減少していますが、この頃にそれまで主流で行われていた8条植えから4条植えへの切り替えが行われました。これにより同一ハウスの植え付け本数は20%程度減少しますが、間を広くとることで葉や花に日光がよく当たり、より高品質な切花の生産が行われるようになりました。
 それにより市場販売単単価が向上し今までと同じ収益が得られるとともに、出荷の本数が減少しないようにと生産面積の拡大が進み、平成20年からの10年で1.7倍の生産数量と、一気呵成に拡大が図られました。

現状と今後

 さまざまな試行錯誤を重ね数字の上では順調な生産拡大が図られているJA上伊那トルコギキョウですが、徐々に進んで行く時代の中で次々に課題が尽きることがありません。

 これまでJA上伊那ではベーシックな花色を高品質に作りこなすことを基本に生産を行ってきましたが、近年ではトルコギキョウのベーシックそのものが大きく変化しています。紫と白の2大巨頭がトルコギキョウそのものだった時代から一転、現在では多彩な花色、巨大な花、フリンジが入った花弁が当たり前です。そんな時代背景の中ですが、旧来のトルコギキョウを愛されるお客様も多くいらっしゃるのが現状です。
 その中でJA上伊那の進む道はどこにあるのか、何度となく議題に挙がることではありますが、未だ結論は出ていません。

 また、特に2015年ころから土壌に由来する病害が激発しおり、ひどい場合には植えたものがそっくりそのまま枯れてしまうことがこの数年で多発しています。
 解決策を模索して病気に強い品種を開発したり、他産地様や行政の協力・助言を仰ぎ改善に取り組んでいますが、こちらも根本的な解決は見られていません。

 農業生産物としてのトルコギキョウは、この上伊那の地において気候、土壌などさまざまな意味でとても地に合う作物です。
 昔から様々な花の生産が盛んなこの上伊那に、オリジナル性を持った花が咲き誇ることは地域の誇りです。これからも愛される切り花、愛されるトルコギキョウの生産に、さまざまな課題をクリアしながら取り組んで行きたいと思います。